養成ギプス

さて、訓練は始まりました。\r
皆様、変換するという考えは頭のスミへ追いやってくださいまし。\r

当時はコンピュータで漢字は使えませんでした。\r
ですから、変換後の画面確認の必要がありません。\r
カタカナと英字と数字の入力が正しくできれば良かったのです。\r

その代わりに
カタカナの50音、記号、英字、数字は全部覚える必要がありました。\r
何、おそろしーって?んなことねーですよ。\r
お隣の大陸では何千もの文字を\r
コードで暗記している子供たちがいるそーですから。\r

話を元にもどしましょう。\r

最初は当然入力の練習、正確に入力できるようになって
本物の仕事をさせて貰えるのです。\r
しかも、人数が7人で機械は6人分。\r

7人目に入社している新入社員は、機械の前に座る日が\r
なかなかやって参りません。\r
1週間ほどが経ち、ついに直訴を決意致しました。

養成ギプス

雨、遅れてやってきましたね。\r
空が少し明るくて中途半端な気がいたします。\r
はっきりしないのは人も天気も困りものです。\r

希望にあふれて入社したお若い皆様\r
そろそろ飽きてきた時期でしょうか。\r
それとも、上司・先輩との圧倒的な実力差に
参っておられるでしょうか。\r

はじめてキーボードの前に座ったときのことを\
ときどき思い出します。\r

指一本触れると、それはそれは瞬時に
黒いテレビ画面に緑色の文字が表示されました。\r
そして、あっという間に文字のラインが引かれてしまうのでした。\r

「チチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチ」\r

という具合に。\r
これは驚きでした。\r

そしてもっと驚いたのは、キーボードを操っている誰もが
画面もキーボードも見ていないことでした。\r

左手の人差し指には、オレンジ色の指サック。\r
読んでいるとは思えないスピードで伝票がめくられます。\r

紙をめくる音、キーボードの音。\r
ピッ、ピツ、という電子の音、時折歩く靴音。\r

うるさくて静かな仕事場が戦場でもあることは
のちのちに知る事になったのでございます。