一軒おいてとなりのツボネ 下

不惑を前にしながら、『ため口』で話すのが日常でも\
どなたもご箴言遊ばさないというのでしたら\
実に(げに)世間とは意地悪で冷たいものと得心致しました。\r

その他に『洗い物を若い者がしないの、あれはこうの』と
ご苦労の数々を述べられことを思い出したのでございます。\r

おお、さきほどのことでございますね。\r
「髪、伸びたん?」\r
「ああ、これは結んだところに付け毛をしてるんですよ。」\r
「ふ〜ん、長かったけえね、また伸びたんかと思うた。」\r

煙草の吸い殻を捨てたいご様子に気づき\r
早々に退散致しました。\r

彼女の前では、お局で通す決心を新たにしたのでございます。

一軒おいてとなりのツボネ 上

年度末のせいか、出勤日の会社も多いようでございます。\r
本日は一日中、陽の照ったままで雨が降っては止んで
まことに気まぐれな空模様でございました。\r

さきほど炊事場で声をかけるお方が。\r
「・・・・・・・?」\r
振り返るといつも通り、煙草を指に挟み
煙を吐き出しながら斜めに構えて立っておいでです。\r

このお局さま、以前にはこのように、宣ったのでございます。\r
「アタシ、若く見られるんよぉ、『しじゅう』近いのに。」\r

俗に言う『ため口』でございますね。\r
こんなとき、ああ浮き世の義理とは辛いものにて
当然お聞きしなければなりませぬ。\r

「本当はおいくつですか?」\r
「38。」\r
「あらま。」\r
驚いたのはそのまんまにしか見えないことでございます。\r
周りの方々は、思いやりにあふれておいでなのでございましょう。