羅生門

茶坊主、殿中にて茶を煎れながら申すに
「先日さるところで、奥方の齢を尋ねられしが・・・答えられず。」\r
「なんとな。」\r

「その方の仰せでは、七つ、八つ、九つばかり少なく・・・・・。」\r
「して。」\r
「殿のほうも五つ、六つほどは多く見誤りと存知まする。」\r
「それでそなた、いかがいたした?」\r
「ははっ、『そのようなもの』と。」\r

奥方、然々、殿に奏上致せば、殿は
「歳の差、一回り以上に見ゆるは心外。」\r
「その白き髪のせいにて、(髪をこそ)ご成敗遊ばせ。」\r

「なに、そちは染めて、人々を眩ましておろう。」\r
「わらわを変化(へんげ)のごときその云いようは、言いがかりにて。」\r

「思うても見よ、百万石の身分でも役者でもなし。」\r
「御意。」\r
「如何にして年若き妻を娶ることが叶おうものか。」\r
「御意。」\r

「珍念にしかと命じよ、『齢の誤りはその場にて正せ』と。」\r

奥方、茶坊主を吟味
「如何なる魂胆があって『誤り』をそのままにいたすか。」\r
「魂胆など、滅相もございません。」\r
「覚悟の上で申すか。」\r
「誓って。」\r

幾度と繰り返される問答なれど、珍念の真意は藪の中。