しつこく箸の上げ下ろし

さて、そんな曾祖父の教えのひとつ。
「経済力の無いものとは喧嘩するな」

貧しい家庭の子供が相手であれば
勝っても負けても損をするから、というのです。

怪我をさせたら、治療費は当然の負担
怪我をさせられたら、相手は治療費を負担できない

大人の社会でも言えることですね。

例えば交通事故や裁判のことを想像してみてください。
お金の他に時間も浪費することになるのは明らかでしょう。

不肖の子孫であるわたくし
箸置きがないときについ「渡し箸」をしてしまうのですけれども
「喧嘩しない」ということだけは肝に銘じております。

箸の上げ下ろし

我が父は細かいことに結構うるさい人でありました。

箸の持ち方、ナイフ・フォークも正しく
音をたてる食べ方はいけない
夜九時以降の電話は禁止・・・etc。

その枕詞は
「おばあちゃんは」
「おじいちゃんは」なのでした。

父は祖父母に育てられましたので
「おじいちゃん」というのはわたくしから見ると
曾祖父にあたるわけですね。

この曾祖父を、父は非常に尊敬していたのでした。

曾祖父は明治元年の生まれ。
江戸の伝統、明治の進取をともにもっていた人物だったようです。

写真が何故か自宅にあるのですが
失礼ながら、お世辞にも器量よしとは言い難い容貌で
その妻が歌っているときの声に聞き惚れて後妻に押しかけてきた
という伝説は怪しいものです。

理由のひとつは、彼女の写真を見ると美しいから。
ふたつめは、四国の実家は船で仕送りをし続けるほど財力があったから。

他にいくらでも嫁ぎ先は望めたはずです。

それでもひとつだけ納得できる訳を探すとしたら
曾祖父の性格がよかったから、ということになります。

父は曾祖父の人となりを、このように言っていました。

道ばたに穴を見つけると土を運んで埋め
蚊に刺されても叩き殺さない人であった、と。

父の死後、弔いに出かけた寺で戦前に鐘を寄進していたことを知り
世間が仏のようだと表現したことも、腑に落ちました。