線路 by はなこ
玄関ロビーの花の活け方がどこか変わったように思いましたので
丁度居合わせた家主さんのところのスタッフにお尋ねしました。
「こんにちは 今回の とてもいいですね」
白い大理石の石段を五、六段上ったところに椅子とテーブル
両側の「壁の花」の、その名を裏切らせたのは新しい業者だと
紳士は教えてくれました。
「お世話になります ああ、花屋に言っておきますよ きっと喜ぶでしょう」
エントランスでは色々な出会いがあります。
昨日は荷物を抱えての出勤で、エレベータを使おうかと考えたのですが
前をゆく人が乗ったあとを、追うのもはしたない気がして
階段にしようと心を決めました。
非常階段は二カ所にあり、いつもは使わない玄関側へ向かいますと
そこにもやはり先客がいて、段を上っていきます。
二階の踊り場でその女性が立ち止まり、振り向いて声をかけます。
「ここのエレベータは使ってもいいーんよ」
広島弁の、優しく親切な口調に思わず
はい、ありがとうございます、と答えました。
