過去に出会った昼下がり

彼は言いました。
「意志あるところに」

まだわたくしが駆け出しだったころ、自分の未来に不安を感じ
少しばかり弱気な発言をしたときでした。

今でも己の才能や運を信じられなくなったときにに
心の中でつぶやくのです。

「意志あるところに」

その後、協力関係から利害が対立する立場に変わり
最後に電話で話をしたときから三年近く遠ざかっていました。

今日、彼の行方がわかりました。
黄泉へ旅立っていたのです。

母が自ら命を絶ったために
彼は取り残され、捨てられた思いから逃れられませんでした。
だからこそ、妻子に深い愛情で接していると確信していました。

しかし、彼も家族を残して去ってゆきました。

訃報がわたくしの元へ届いたのは、すでに二年二ヶ月が過ぎた午後のことでした。