熊手

同業者の社長の話である。
スタッフが風水に関心を持ち始めたという。

「わかりますよ」
「西になんとかを置けばいいというので買ってきたり」

「ああ、信じているというのでなく念じているのですね」

日ごろは根拠の無い自信で楽天的に過ごしている人でも
ふと不安になることがある。
仕事が途切れるとそれに絡め取られる。

「実は先年、私も熊手を買いまして」と、その社長は続ける。
「あら、今上り調子なのでしょう、そのせいかしら」
「いやいや、小さかったんで」
「大きすぎるのは欲深で、かえって問題なのでは」

電話の向こうとこちらで、共感する何かがあった。

日は変わって、金曜日に訪ねてきた人がある。
サラリーマンを辞めてほぼ一年、やはり熊手を買ったという。

そういえばずっと以前に、有名なR社のビルの屋上に鳥居があると聞いた。
この世に確実なものなど無い。
人事を尽くして最後に天命が下る。

そろそろ我が社も神頼みをしますかね。
いや、拍手はお客様の方へ向けて打ちたいな、今のところ。

失せモノ 二

家中を何度探し回っても、見つからないまま夜は更けるばかり。
ついにあきらめて床に就いたのでした。

やがて朝を迎え、いつものように仕事が待っている身。
落ち着かない気持ちで出ようとした玄関口で、もしや、と足が止まりました。

最初に見たところをもう一回!!

踵を返して食卓の脇を通り抜け
テレビの台にしている家具の引き出しを開けてみます。 

すると、何事も無かったかのようにCDは収まっていたのでした。
嬉しさと不思議さに包まれながら出勤したその日
またしてもバッグの中身をさらっている自分に苦笑を禁じえません。

七回探して人を疑え。

この戒めは母の言葉ですが、「人」とは第一にはこの自身のことを指すかと
心のうちは情けなさに満ちてくるのでした。

かき回しながら今度こそは紛失かと結論が出掛かった瞬間、指に当たりがつきました。
鞄の内壁に張り付いているカードでした。

合掌。。。