熊手

同業者の社長の話である。
スタッフが風水に関心を持ち始めたという。

「わかりますよ」
「西になんとかを置けばいいというので買ってきたり」

「ああ、信じているというのでなく念じているのですね」

日ごろは根拠の無い自信で楽天的に過ごしている人でも
ふと不安になることがある。
仕事が途切れるとそれに絡め取られる。

「実は先年、私も熊手を買いまして」と、その社長は続ける。
「あら、今上り調子なのでしょう、そのせいかしら」
「いやいや、小さかったんで」
「大きすぎるのは欲深で、かえって問題なのでは」

電話の向こうとこちらで、共感する何かがあった。

日は変わって、金曜日に訪ねてきた人がある。
サラリーマンを辞めてほぼ一年、やはり熊手を買ったという。

そういえばずっと以前に、有名なR社のビルの屋上に鳥居があると聞いた。
この世に確実なものなど無い。
人事を尽くして最後に天命が下る。

そろそろ我が社も神頼みをしますかね。
いや、拍手はお客様の方へ向けて打ちたいな、今のところ。