道草を反省する

「お似合いですよ」

つい、出てしまった言葉を聞いた彼女の顔は輝きました。
こちらに視線を向けると言ったのです。

「ほんとう???」

内心、しまったと思いながら「はい」と頷いた私に続けて投げかけてきたのは
「お世辞じゃない??」

「はい」
「ほんとう、ほんとう!?」

「白髪もないし・・・」

「今も言っていたの、美容院でね・・・」
「この店は質がいいの、質がいいものはすぐにわかるの」
「年がいくと首周りは隠さなくちゃ、日に焼けないように」

彼女は鏡の前を離れて、出口に近い私の傍へ寄ってきます。
「はい、三十年前ならきっと迷わずに買ったところですよ」

逸らそうとした話にぶら下がって彼女の演説が始まりました。
「これは三十年以上も前なの、森英恵なの」

相手が閉口しているのに気がつかないらしく
隣にやって来ると喉元まで詰まった襟を開いて見せました。

道草

写真を撮りに出かけられないのがストレスなこの頃です。
ただ今荷出し後の休憩中。

昨日の昼間は泣きたくて泣けない空模様の下を出かけ
夜となっては暑い室内で残業でした。

さて、その、買い物の道中。
地下街のウィンドウに可愛いドレスが飾ってあり、見とれていました。

三十年前なら迷わず買ったよね。

店員さんが気づき、話しかけてきたと思ったら
右の視覚にご婦人が入ってきました。

背は低めで細身のワンピース姿。
長いスカートの裾が逆さの朝顔のようで優雅です。
藍の長袖の上から、黒いレースのベストを試着し鏡の前でポーズ。

ここで私は、してはいけないことをしてしまったのでした。