「お似合いですよ」
つい、出てしまった言葉を聞いた彼女の顔は輝きました。
こちらに視線を向けると言ったのです。
「ほんとう???」
内心、しまったと思いながら「はい」と頷いた私に続けて投げかけてきたのは
「お世辞じゃない??」
「はい」
「ほんとう、ほんとう!?」
「白髪もないし・・・」
「今も言っていたの、美容院でね・・・」
「この店は質がいいの、質がいいものはすぐにわかるの」
「年がいくと首周りは隠さなくちゃ、日に焼けないように」
彼女は鏡の前を離れて、出口に近い私の傍へ寄ってきます。
「はい、三十年前ならきっと迷わずに買ったところですよ」
逸らそうとした話にぶら下がって彼女の演説が始まりました。
「これは三十年以上も前なの、森英恵なの」
相手が閉口しているのに気がつかないらしく
隣にやって来ると喉元まで詰まった襟を開いて見せました。
