
ある団体でイベントがあって、来年春までの契約で参上している。
会の趣旨や団体の特長などの案内に続いて、担当者が自己紹介をするが
いつものように、三番目に挨拶をすることになっていた。
ところが、さぁ、という具合に右隣からマイクが渡ろうとしたとき
先端がポロリと落ちてしまった。
マイクの、帽子のようなものがない状態はなんだか寒々しくて間抜けである。
あわてて拾い上げて取り付けようと試みたが、指先が震えてすぐには元のようにならない。
やっと正常位置になおしてこちらへ手を伸ばしてきたときには
彼女は恥ずかしさでロボットのような動きになっていた。
何を言うかは考えていたのであるが、こんなときはフォローをしなくてはならない。
咄嗟に
「緊張が解けて気楽になりました、ありがとう」
と、口から出てしまった。
会場が呪縛から解き放たれたのは良かったが、今度は彼女の笑いが止まらない。
「よろしいでしょうか」
と声をかけて自分の話に持っていかなくてはならない羽目になり
時間が押してきたように感じられたので早々に次の人にバトンタッチした。
ほっとしていると左隣の人が
「何某まるこです」と挨拶をした。
へええ・・・。
「まるこ」なんて名前あったんだなぁ・・・。
日曜日でもあって、ちびまる子ちゃんのことを思い出し
移動する段になって話しかけた。
「ねぇ、まるこさんておっしゃるの?」
「えっ、ワタシまるこって言いましたか?」
血の気が引いた。
「マリコなんですけど」
「すみません、そう聞こえたんで。どうかしてたのね」
申し訳なくて謝ったのだが、今日になっても耳から離れない。
やはりあのとき「まるこ」と発音されたような気がしてならないのだ。
そして、おしゃれな前下がりの、短いオカッパ頭を思い出す。

