気分爽快

 そう、検討を重ねた結果選んだのは「TREK」。
いつもながら「この店で一番安いのをください」と言って
アドバイスを聞き、少しばかり値段交渉をして決定です。

 当初折り畳みを考えていたのですが、結局は
心も体も走りたかったんだとわかりました。

 店まではタクシーで行き、帰りは乗って。
この計画に昨日から胸が躍っていました。

 最後に自転車に乗ったのは何年前か、いえ何十年前でしょうか。

 こんなのを買ってよかったのかな、そう思ったのは店を出た5分後でした。

 通りに出るまでの道は舗道と言っても狭く、凸凹がひどく
曲がり角で深く落ち込み、その先はガード下へとつながっています。

 慣れないハンドルさばき。

 よろけて足をつこうとした処に地面はなく
左から右足に軸を変えてやっと花壇の煉瓦につま先が届きました。
反対のペダルがぐるりと回って脚を傷つけます。

 ほっとしたところで信号が青になりました。
ハンドルを握っている手は、焦りで緊張が倍増します。
交通量の多いここを渡らないでいては、始まらないのです。

 思い切って踏み出し、少しジグザグしながら渡ったとき
初めて左手でブレーキをかけました。

 こんな試練を味わうとは。

 止まったところで痺れた右手を開いてみると
指も掌も薄赤く染まっています。
斜め掛けにした鞄を背中へずらし、大きく息をしました。

 もう一度。

 出発した二葉の里から裁判所辺りまではぐらぐらとしていたのが
広島城に来たときには楽になっていました。

空鞘橋を渡り、本川町を過ぎ
周囲を見渡す余裕が生まれ、スピードも上がります。

帰り着くころには、心地よい風を感じていたのでした。