初夏の生まれである。\r
誕生日の前日が結婚記念日で、どちらを祝うか考えるまでもなく\r
毎年宴は一度で済ます。\r
今年の結婚記念日には
母が深紅の薔薇の花束を抱えてやって来た。\r
「おめでとう!!」\r
と言った後の様子がおかしい。\r
「こんな日に言わなくちゃならないなんてね。」\r
母は娘のためにバースディケーキを予約していた。\r
ケーキを受け取り、花屋でアレンジメントができあがるのを待つ。\r
そこへ携帯電話が鳴った。\r
「おばちゃん?」\r
「母と伯父さんが・・・。」\r
この朝二人が相次いで亡くなった、と言う。\r
甥の言葉を聞くと、母の頭の芯は膨張と伸縮を繰り返した。\r
これで末子の自分一人が、残されたのだ。\r
十離れた兄と、五つ違いの姉は犬猿の仲であった。\r
それがなぜ、同じ日に逝くのか。\r
奇しくも同じ病であった、と初めて知らされた。\r
「大丈夫ですか。」\r
店員のかける声で我に返り、母は娘の所へ歩いた。\r
花束とケーキを受け取ったわたくしは
動揺している母の携帯電話の着信記録から、従兄弟に連絡を取った。\r
暮れに電話で話をしたのが最後になったこと、そのときの声。\r
伯母とのやりとりを思い出すまいとしても、涙になる。\r
彼女は自分の命を終わりを、たぶん知っていたのだ。\r
今日は盆の入り、初盆だね。\r
お帰りなさい。
