西帰行 

日暮れになって門司港に着いた。\r
海岸線は右手に変わる。\r
オレンジ色の夕陽が海へ帰ろうとしていた。\r

沖の鴎と飛行機乗りはよ・・・。\r
昔の歌を何故か反芻する。\r

『門司港レトロ』の賑わいに後ろ髪を引かれながらも\
廃線になった線路跡の脇を、寺へ向かった。\r

寺へ着いたのは夕闇迫る時刻だった。\r
人影の無いお堂に、明かりが灯っている。\r
入り口は開放してあり、誰でも手を合わせて良いのだ。\r

先客の手向けた線香が二寸ほど燃え残っているその隣へ
二本新しいものを立てた。\r

暫し祈る。\r

思うことは数々あれど、願いはそう多くはない。

西帰行 

宮島を過ぎると混雑は緩解して
心配していた帰省ラッシュではなかったと腑に落ちる。\r

命がけの勝負をする船乗りに小遣いをかける人たちの
長い行列だったようだ。\r

生まれてきて、生きていることがすでに博打。\r

そう思っている人間は少ないのであろう。\r
何事もなく平和な人生に退屈したからか
あるいは何かから目をそらしたいのか。\r

この地は八百年の昔、船が交通の要であった御代に
往来する者から税を取り立てた要衝と聞いたことがある。\r

見知らぬ人よ。\r

遠く、東から来たとナンバープレートで判る。\r
その昔、あなたの祖先もここへ宝を落としたのかも知れない。