夫の実家へ行った。\r
高速道を使わずに往復450キロの行程は、毎度の強行軍である。\r
その日のうちに戻らなければ翌日の仕事に差し支える。\r
兵糧、水を用意し朝早くから出かけた。\r
防府、小郡と過ぎて山の中を進んでいく道すがら\r
傘と10個ほどもあろうかという袋を携えた男と、すれ違った。\r
男は中年で、髭は伸びており、長らく風呂に入っていないように想える。\r
「あれは何だろうね。」\r
自分の中に浮かぶ思いを確かめたくて言ってみる。\r
「うん・・・。」\r
同様な風情の者を、広島市内で見かけることはある。\r
多くは自転車か荷台の付いた「バタンコ」を牽いており\r
生活道具と段ボールなどがくくりつけてあるものだ。\r
山の男は徒歩で、袋のひとつひとつは小さかった。\r
衣類や毛布がその中に畳まれているとは想像できないほどに。\r
どこへ行くのかは知れないが
山の中で夜を過ごすには厳しすぎる季節である。\r
枯れたすすきの、折れかかってその結末を躊躇ったまま凍っている景色と
男の足取りが調和しているようであった。
